バリスタエッセイ「ナカノ永久機関」
中田島砂丘
2018年1月19日(金)
社会に出て間もないころ、東京に住む学生時代の友だちがはるばる浜松まで遊びにきてくれた。
とくに観光名所があるわけではないけれど、そのときは友人たちが「海が見たい」というので中田島砂丘に行くことにした。
遠州灘に面した海岸が大きな砂浜になっていて、日本三大砂丘にも数えられている。
海というのも地元の人間には珍しくもなんともない景色だけど、生まれも育ちも東京の友人からするといくらか興味があるのだろう。
遠州灘は波が荒くて遊泳禁止なので、海水浴ができるわけではない。せいぜい波打ち際で水遊びするぐらいだ。でも、社会人になったばかりで不安を抱えた僕らにはとくに目的もなく海を眺めるのも悪くなかった。
同じように海を見ている若い男女がいた。そのカップルは海水に足をつけると、沖に向かってグリコという遊びをはじめた。じゃんけんをして勝った方が「グ・リ・コ」や「チ・ヨ・コ・レ・イ・ト」と発しながら進む子どもの遊びだ。
二人とも沖に向かって進んで行く。でも、深さがすぐに膝上ぐらいになってしまうので、きゃっきゃしながら戻ってくる。そして、また波打ち際からグリコがはじまる。おそらく付き合いはじめなんだろう。なんとも微笑ましい。
それがどのぐらい繰り返されたかわからなくなるころ、ふと気がついた。この終わりのない勝負こそが、社会に出るということなのだと。そして、男三人すごすごと帰路に着いたのだった。

中野隆靖 Takayasu NAKANO
1972(昭和47)年、静岡県生れ。武蔵工業大学工学部卒業。2011年、カフェナカノ開業。オーナーバリスタ、ラテアーティストとして活躍中。

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