バリスタエッセイ「ナカノ永久機関」
本を読むということ
2017年8月11日(金)
この仕事を始めてからめっきり本を読まなくなった。
カフェのマスターなんて空いてる時間がたっぷりあって、本なんて読み放題でしょ、と思うかもしれない。でも、現実にはそんなことはなくて、毎日いろいろな雑用に追われたあげく、本を読む余裕なんてほとんど見つからない。そうやっていうと、今度はさぞかし儲かっているように聞こえるのだけど、それについてもそんなことはなくて、好きでなければ割の合わない仕事だということだ。昔から言うじゃないか。貧乏暇なし、と。
それでも学生のころはジャンルを問わずたくさんの本を読んだものだし(そのおかげかどうかわからないけれど国語の成績はそれなりに良かった)、今でも活字は好きだ。にも関わらず、本を読まなくなってしまったというのは一体どういうことだろう。
インターネットやスマートフォンのおかげで最新の情報を手に入れることや気の利いたコミュニケーションには困りごとが少なくなった。でも、その代わりに、猛烈な速さで移りゆく世間について行くのが精一杯で、物事を深く考えたり、誰かとちゃんと心を通わせるといったゆとりがなくなってしまったということなのかもしれない。
世間の荒波を格好良く乗りこなすのはとてもエキサイティングではあるけれど、たまには丘に上って、お気に入りの本のページをめくるのもきっと悪くない。その時、淹れたてのコーヒーがあればなおさらだ。

中野隆靖 Takayasu NAKANO
1972(昭和47)年、静岡県生れ。武蔵工業大学工学部卒業。2011年、カフェナカノ開業。オーナーバリスタ、ラテアーティストとして活躍中。

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